「何度言っても伝わらない…」「この子にはどう伝えたらいいの?」
そんな日々のもどかしさを感じている方に、ぜひ読んでいただきたい1冊。
本書『発達障害の子どもに伝わることば(SB新書)』では、言葉のかけ方を少し工夫するだけで、子どもとの関係がぐっとよくなるヒントがたくさん詰まっています。
◆書籍の概要と要約
著者は言語聴覚士であり、特別支援教育にも深く関わる川﨑聡大先生。
本書では、ASD(自閉症スペクトラム)やADHD(注意欠如・多動性障害)の特性をふまえ、「なぜ言葉が伝わりにくいのか」「どうすれば伝わるのか」をわかりやすく解説しています。
章ごとの要点は以下の通り:
- 第1章:発達障害の基本的な理解と捉え方
- 第2章:言葉の発達の流れと個人差について
- 第3章:ASDの子どもに伝わりやすい言葉とは
- 第4章:ADHDの子どもに効果的な声かけとは
- 第5章:具体的な伝え方の工夫(予告、視覚支援、見通しづけなど)
さらに、専門家によるコラムも収録されており、ICT活用や非認知能力についての視点も得られます。
◆ 本書の要約
1. 「伝えたつもり」が伝わらない理由
発達障害のある子どもは、言葉の裏を読むのが苦手だったり、感覚の違いから一般的な表現が通じにくかったりします。そのため、大人が普通に言っている「ちゃんとして」「いい加減にしなさい」などの抽象的な言葉では意図が伝わりません。
2. 伝えるためには「具体的・肯定的」に
・「走らないで」よりも「歩こうね」
・「うるさい!」ではなく「小さな声で話してね」
というように、否定よりも具体的に「してほしいこと」を伝えることが効果的です。
3. 視覚支援やスモールステップが効果的
視覚的に見える形で情報を提示したり、一度に多くを求めず「小さな目標」から少しずつ段階を踏むことが、理解と行動の成功につながります。
4. 子ども自身の特性を理解し、尊重する
発達障害のある子どもは「わざと困らせている」のではなく、「できない」「わからない」ことがあるだけです。本人の視点に立って接することが、信頼関係と自己肯定感を育てます。
5. 親や支援者も「ことば」を磨こう
子どもに伝える前に、自分がどんな「ことば」を使っているのかを見直すことも大切です。ことばひとつで子どもの行動が変わることがあると本書では繰り返し伝えています。
章ごとの要約
第1章:発達障害理解の大前提
「発達障害」という言葉の定義や使われ方は人や世代によって異なることを解説。
「障害の医学モデル」と「障害の社会モデル」の違いを紹介し、障害をどのように捉えるかの視点を提供。
知的障害と発達障害の違いや、発達障害の原因についても触れています。
第2章:ことばとコミュニケーションの発達
典型的な言葉の発達過程を紹介し、発達の「マイルストーン」がどの程度参考になるかを考察。
発達には個人差があり、山あり谷ありであることを強調。
ことばの発達に関する誤解やトンデモ理論がなぜ生まれるのかを分析。
第3章:自閉症スペクトラム障害(ASD)のことばとコミュニケーション
ASDの特性として、こだわりや偏食、言葉を字義通りに解釈する傾向などを紹介。
抽象的な言葉の理解が難しいことや、助詞の使い方に課題があることを解説。
視覚支援の重要性や、子どもを中心に考える「チャイルド・センタード」の視点を提案。
第4章:注意欠如・多動性障害(ADHD)のことばとコミュニケーション
ADHDの特性として、注意の4つの働きや、忘れ物・落とし物が多い理由を説明。
片付けができない、時間管理が苦手といった行動の背景を分析。
「早くしなさい」といった声かけが逆効果になる理由を考察。
第5章:発達障害の子どもに伝わることば・コミュニケーション
「ダメなことはダメ」と伝える際の工夫や、幼児期における言葉の育て方を提案。
ただ我慢させるのではなく、見通しを持たせることの重要性を強調。
子どもが自分の要求や拒否を適切に伝える方法や、予告の重要性とそのやり方を解説。
コラム寄稿
合理的配慮とICT活用(水内豊和):ICTを活用した合理的配慮の方法を紹介。
文字指導の落とし穴(荻布優子):文字指導における注意点や誤解を解説。
現在の幼児への発達支援の問題点(黒田美保):幼児への発達支援の現状と課題を考察。
いま注目を浴びる「非認知能力」とは何か(森口佑介):非認知能力の重要性とその育て方を紹介。
◆おすすめしたい人とその理由
『発達障害の子どもに伝わることば(SB新書)』を読んで特におすすめしたい人と、その理由は以下の通りです。
1. 発達障害の子どもを育てている保護者
理由:
日常の「伝わらないもどかしさ」に悩んでいる保護者にとって、具体的で実践的な言葉がけの工夫が詰まっており、すぐに使えるヒントが多く載っています。「どうして通じないんだろう…」という不安を、「なるほど、こうすればいいのか!」という安心に変えてくれます。
2. 保育士・幼稚園教諭・小学校教員など教育・保育関係者
理由:
特性のある子への対応だけでなく、すべての子どもとのコミュニケーションに活かせる知見が豊富です。言葉ひとつで子どもの反応が大きく変わることがわかり、「叱る」ではなく「伝える」ための技術を学ぶことができます。
3. 支援員・特別支援教育に関わる専門職
理由:
ASDやADHDなど各特性に応じた伝え方、合理的配慮、ICTの活用法など、専門的な知識を現場に落とし込むための具体策が紹介されています。現場で子どもと信頼関係を築くうえで非常に参考になります。
4. 言葉がけに自信が持てないすべての大人
理由:
発達障害の子に限らず、子どもや相手とのコミュニケーションにおいて「自分の言葉は届いているか?」と考えるきっかけになります。特に「否定語より肯定語」「抽象より具体」という原則は、あらゆる人間関係に役立ちます。
◆感想
この本の魅力は、「こうすればうまくいく」という実践的な工夫が、理論とともに紹介されている点です。
例えば、「早くしなさい」と繰り返しても響かない理由や、「見通しを伝える」ことの大切さなどは、目からウロコでした。また、子どもの困った行動の裏にある“特性”を理解することで、イライラや叱責が減り、関わり方がガラリと変わります。
家庭でも、保育や教育の現場でも、すぐに活かせる知恵が詰まっています。
◆まとめ
『発達障害の子どもに伝わることば』は、発達に凸凹のある子どもに限らず、すべての子どもとの関係づくりに役立つ一冊です。
「うまく伝わらない」を「伝わった!」に変える、その一歩を踏み出したい方に、ぜひ手に取っていただきたいです。
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